保険はいくら必要?リスク別に考える「我が家の不足分」の出し方
「保険、いくら入ればいいんだろう?」
そんな疑問を抱えたまま、保険ショップで勧められるままに加入してしまった経験はありませんか?必要かどうかわからない特約をいくつも付けて、毎月の保険料が家計を圧迫している…そんな方も少なくありません。

保険代理店で11年間、1,000世帯以上の相談を受けてきた私が出した結論はシンプルです。公的保険と貯蓄でカバーできる部分を把握したうえで、足りない分だけ民間保険で備える。この考え方さえ押さえれば、必要以上に保険料を払い続けることはなくなります。
この考え方を身につけるだけで、生涯の保険料が数十万〜数百万円変わることも珍しくありません。この記事では、6つのリスク別に「我が家の不足分」の考え方を具体例とともに解説します。
この記事を読むとわかること
- 公的保険と貯蓄を活用して「不足分だけ」備える考え方
- 病気・死亡・障害・介護・失業・就業不能、6つのリスク別の不足分の出し方
- 貯蓄額・ライフプラン・価値観の「3つの軸」で自分の基準をつくる方法
1. 保険選びの基本:公的保険+貯蓄で足りない分だけ備える
民間保険を検討する前に、まず「自分がすでに持っている備え」を確認してみましょう。「民間保険で全部カバーしなければ」と思いがちですが、実は公的保険が想像以上に充実しているんです。
備えには以下の3つの層があります。
公的保険の給付は想像以上に手厚いものです。代表的な例を挙げます。
- 高額療養費制度:月の医療費自己負担に上限がある(標準的な収入の方で月約8万円)
- 傷病手当金:病気・ケガで働けない会社員に標準報酬月額の2/3を最長1年6か月支給
- 遺族年金:主な稼ぎ手が亡くなった場合に遺族へ支給
- 障害年金:障害が残った場合に等級に応じて支給
民間保険は、この「公的保険+貯蓄」でカバーしきれない部分だけを埋めるものです。まず①②を確認してから③を考えると、必要な保険が絞り込みやすくなりますよ。
※公的保険の仕組みや給付額の詳細は【公的保険の基礎知識】をご覧ください。
2. 核となる考え方:「起こるか」ではなく「起きた時にどう対処するか」
「このリスクは自分には起こりそうにないから保険は要らない」
そう思っていませんか?じつは、この判断基準だと本当に必要な保険を見落としてしまうことがあります。
たとえば、がんは生涯で2人に1人がかかるとされますが、治療費の多くは高額療養費制度でカバーされます。一方、住宅ローンを抱えた家庭の主な稼ぎ手が突然亡くなると、確率は低くても家計が破綻する可能性があります。
- 低確率でも「起きた時に家計が破綻する」→ 備える必要あり(例:死亡、長期就業不能)
- 高確率でも「起きた時に貯蓄や公的保険で対処できる」→ 備える必要は低い(例:軽いケガ)
確率ではなく、インパクトで考える。これが保険選びでいちばん大切な考え方です。次の章では、この考え方を実践するための「3つの軸」と「6つのリスク別不足分」を解説します。
3. 不足分を考える前に知っておく「3つの軸」
同じリスクでも、必要な保険の金額は家庭によって大きく異なります。その違いを生む3つのポイントを確認しておきましょう。
3-1. 貯蓄額:2層に分けて考える
貯蓄は「生活防衛資金」と「リスク対応資金」の2層に分けて考えます。
- 生活防衛資金:生活費の3〜6か月分。失業や病気で働けない期間の生活費をカバーする「最低限の備え」
- リスク対応資金:それ以上に蓄えた余裕のお金。医療費・介護費・修繕費など突然の出費に使える
貯蓄が多い家庭ほど、民間保険への依存度は下がります。逆に貯蓄がほぼない状態では、民間保険で備える範囲が広くなります。貯蓄額は保険設計の出発点です。
※生活防衛資金の目安や貯め方について詳しくは【生活防衛資金とはいくら必要か】をご覧ください。
3-2. ライフプラン:「いつまで」備えるかを先に決める
独身か既婚か、子どもの有無・年齢、住宅ローンの有無によって、必要な保障の種類と金額は大きく変わります。
特に大切なのは「いつまで備えが必要か」を先に決めること。保険期間を明確にすることで、必要以上に長い保険に入ることを防げます。
- 子どもが独立するまで(末子が22歳になるまでなど)
- 住宅ローンを完済するまで
- 配偶者が老齢年金を受給するまで
3-3. 価値観:どちらも正解
「万が一のために手厚く備えたい」か「保険料を抑えて貯蓄・投資に回したい」か。どちらも正解です。大切なのは、自分と家族が納得できる選択をすること。この3つの軸を自分の言葉で整理してから、各リスクの不足分を検討しましょう。
4. リスク別に考える「我が家の不足分」の出し方
ここからは6つのリスク別に「公的保険の給付 → 不足分の考え方 → 民間保険で備える目安」の順で解説します。自分の家庭に当てはまるリスクから読み進めてください。
4-1. 病気・ケガ:短期入院は貯蓄で対処できる
医療保険を考えるとき、まず押さえておきたいのが「短期入院なら貯蓄でカバーできる」という事実です。ただし、長期療養や就業不能になった場合は話が変わります。
高額療養費制度により、月の医療費自己負担には上限があります(2024年時点、標準的な収入の方で月約8万100円+α)。ただし、この制度の対象外となる費用があります。
自己負担となる費用(高額療養費対象外)
- 食事代:1食510円×3食=1日約1,530円(2024年6月改定後の標準負担額)
- 差額ベッド代:個室希望の場合は別途(平均6,000〜8,000円/日)
- パジャマレンタル:約220〜330円/日(10日入院で約2,200〜3,300円)
- タオルセット:約110〜165円/日(10日入院で約1,100〜1,650円)
- おむつ代(使用する場合):約500〜700円/日
- 見舞いにくる家族の交通費:距離・頻度によって数千〜数万円
一般的な入院日数(厚生労働省「患者調査」2020年)は手術を伴う一般病棟で10〜14日程度。合計の自己負担は10〜20万円が一つの目安です。
また、がんや精神疾患などで通院が長期化するケース、傷病手当金が切れた後も働けない状態が続くケースは、医療費だけでなく収入の減少も家計を圧迫します。特に自営業・フリーランスは傷病手当金がないため注意が必要です。
- 短期入院の場合:貯蓄20万円程度でカバー可能 → 医療保険の優先度は低め
- 長期療養・就業不能のリスクがある場合:医療保険+就業不能保険の検討を

貯蓄が20万円以上あれば、短期入院の医療費はカバーできます。ただし収入が減る期間が長引く場合は、別の備えも一緒に考えてみてください。
※医療保険の選び方・詳細ケースは【医療保険の選び方】をご覧ください。
出典:厚生労働省「患者調査」(2020年)、全国健康保険協会「傷病手当金」
4-2. 死亡:遺族の「収支」で必要保障額を計算する
特に子どもが小さい時期は、6つのリスクのなかでここが最優先で備えるべき項目です。万が一のとき、残された家族の生活が成り立つかどうかを「収支」で確認しましょう。必要保障額は「遺族の支出合計 − 遺族の収入合計」で計算します。
必要保障額の計算式
必要保障額 = 遺族の支出(生活費+教育費+住居費)
− 遺族の収入(遺族年金+配偶者収入+貯蓄取崩し)
支出の目安
- 生活費:現在の生活費の約70%(本人分が減るため)
- 教育費:子ども1人あたり、公立中心で約1,000万円、私立混在で約1,500〜2,000万円
- 住居費:賃貸なら家賃継続、持ち家(団信あり)なら住宅ローン残高を差し引ける
収入の目安
- 遺族基礎年金:子ども2人の場合、年約150万円(2024年度)
- 遺族厚生年金:会社員・公務員の配偶者に支給(在職中の収入による)
- 配偶者の就労収入・現在の貯蓄からの取崩し
必要年数の目安は「末子が独立するまで」または「配偶者が老齢年金を受給するまで」。住宅ローンがある場合は団体信用生命保険(団信)で完済されるため、その分は差し引いて計算できます。

子どもが小さい時期が、死亡保険に最も手厚く備えるべきタイミングです。子どもの独立とともに保険金額を段階的に下げる”収入保障型”が、コストパフォーマンスの高い選択肢になることが多いですよ。
※詳しいシミュレーションは【死亡保険の必要保障額シミュレーション】をご覧ください。
出典:日本年金機構「遺族年金」、文部科学省「子供の学習費調査」(2022年)
4-3. 障害:死亡とは違う「本人が生き続ける」前提の備え
障害リスクが死亡リスクと大きく異なる点が一つあります。それは、本人が生き続けるため、生活費・医療費が継続してかかることです。
死亡との決定的な違い
- 本人の生活費・医療費が継続してかかる(死亡なら本人分はゼロ)
- 働けなくなる期間がどれだけ続くか不透明
障害年金は障害の等級によって受給額が大きく異なります。障害基礎年金は1級(年約97万円)・2級(年約78万円)、障害厚生年金は3級でも月最低約6万円(2024年度)が一つの基準です。ただし等級認定の審査は厳しく、受給できないケースもあります。
必要保障額の考え方
必要保障額 =(本人の医療・生活費+家族の生活費)
−(障害年金+配偶者収入+貯蓄)
民間保険の選択肢としては、就業不能保険・所得補償保険・収入保障保険(生存時支払い特約付き)があります。特に自営業・フリーランスの方は傷病手当金も雇用保険もないため、この備えを優先的に検討してみてください。
※詳しい解説は【障害への備え・就業不能保険の詳細】をご覧ください。
出典:日本年金機構「障害年金」
4-4. 介護:在宅か施設かで費用は倍以上変わる
介護の備えを考えるとき、最初に決めておきたいのが「誰の介護か」と「在宅か施設か」の2点です。この前提によって、必要な金額がまったく変わってきます。
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(2021年)によると、介護費用の目安は月平均約8.3万円、平均介護期間は61.1か月(約5年1か月)で、合計約500〜600万円です。ただし、在宅か施設かで費用は大きく変わります。
- 在宅介護:月5〜10万円程度(公的介護保険の給付+自己負担)
- 施設介護:月15〜30万円以上(特養・有料老人ホーム等で大きく差がある)
親の介護は原則、親自身の資産でまかなうのが基本。自分や配偶者の介護をどうするかが、自分自身の課題です。
在宅介護が中心であれば、貯蓄500〜800万円で多くのケースをカバーできます。施設への入居が必要になった場合はこれ以上かかることもあるため、まずはご家族の意向を確認しておくと判断しやすくなります。それが難しい場合は民間介護保険の検討を。
※詳しくは【介護費用の詳細・介護保険の選び方】をご覧ください。
4-5. 失業:民間保険はない。貯蓄が唯一の備え
実は、失業リスクに対応する民間保険は実質ありません。貯蓄が唯一の備えになります。
雇用保険(失業給付)は一定の備えになりますが、給付額は離職前賃金の約50〜80%で、差額分は自分でカバーする必要があります。また自己都合退職では3か月の給付制限があります。
貯蓄の目安
- 会社員:生活費の3〜6か月分(給付制限期間+求職期間をカバー)
- 自営業・フリーランス:生活費の6〜12か月分(雇用保険がないため手厚く)

この貯蓄は失業だけでなく、病気・ケガで働けなくなった時にも機能します。「生活防衛資金」として複数のリスクに対応できる、最もコスパの高い備えです。
※生活防衛資金の貯め方は【生活防衛資金とはいくら必要か】をご覧ください。
4-6. 就業不能:見落とされがちな「収入ゼロ」のリスク
6つのリスクのなかで、最も見落とされやすいのがこの就業不能です。「入院はしていないけれど、長期間働けない」という状態が、じつは家計に一番ダメージを与えることがあります。
うつ病・がんの通院治療・腰痛の慢性化など、入院はしないが長期間働けないケースが増えています。医療保険は「入院・手術」に対して給付されるものが多く、このような「外来長期療養」はカバーされないことがあります。
- 会社員:傷病手当金(標準報酬月額の2/3、最長1年6か月)→ 終了後は障害年金に切り替わるが等級認定が厳しい
- 自営業・フリーランス:傷病手当金なし → 働けなくなった瞬間から収入ゼロ。最も備えが必要な層
民間保険の選択肢は就業不能保険・所得補償保険。貯蓄で備える場合は「月の生活費×6〜12か月分」が目安です。

4-1(病気・ケガ)と4-3(障害)の間にある「グレーゾーン」がこの項目のテーマです。軽い病気でも長引けば家計に大きな影響があります。特に自営業の方は優先的に備えを検討してください。
※詳しくは【就業不能保険の詳細】をご覧ください。
5. あなたの家庭ではどう考える?「3つの軸」×「リスク」の組み合わせ
ここまで整理してきた「3つの軸(貯蓄額・ライフプラン・価値観)」と「6つのリスク」を掛け合わせると、自分の家庭の必要保険が見えてきます。代表的な3つのケースで確認しましょう。
自分のケースに近いものから、各リスクの詳細解説ページで計算してみてください。
リスク別の詳細解説ページ
6. まとめ:保険は「不安」ではなく「計算」で決める
最後に、この記事のポイントをまとめておきます。
この記事のまとめ
- 民間保険を考える前に、公的保険と貯蓄でカバーできる部分を把握する
- 「起こりやすいか」ではなく「起きた時に家計が対処できるか」で判断する
- 貯蓄額・ライフプラン・価値観の3つの軸で、自分の家庭の基準を持つ
- 6つのリスク別に不足分を計算すると、本当に必要な保険が見えてくる
「勧められたから」「みんな入っているから」ではなく、自分の家庭の数字をもとに保険を選ぶ。それだけで、保険料のムダがぐっと減らせます。この記事で解説した考え方を使えば、本当に必要な備えだけを選べるようになりますよ。
次のステップ
- 公的保険をまだ詳しく知らない方 → 【公的保険の基礎知識】
- リスク別にもっと詳しく計算したい方 → 【リスク別の詳細解説】
- 貯蓄から見直したい方 → 【生活防衛資金とはいくら必要か】
参考資料
厚生労働省「高額療養費制度」/「患者調査(2020年)」/「雇用保険制度の概要」/「介護保険事業状況報告」
日本年金機構「遺族年金」/「障害年金」
全国健康保険協会「傷病手当金」
文部科学省「子供の学習費調査(2022年)」
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2021年)」
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
